「ドナウの娘」は、伝説の舞姫マリ・タリオーニが初演した香り高いロマンティック・バレエの傑作です。19世紀、白く透けるチュールのスカートとトウ・シューズを身に着けた妖精役で一世を風靡し、バレリーナの代名詞となったマリ・タリオーニの個性を最大限に生かすよう創られた本作は、その魅惑的な特色ゆえに失われたと言われています。
これを現代によみがえらせたのが、ロマンティック・バレエの研究家でありパリ・オペラ座バレエ団出身の振付家、ピエール・ラコットです。タリオーニの出世作「ラ・シルフィード」を同様によみがえらせ成功を収めたラコットは、次に手がけるのは「ドナウの娘」だと決めていたといいます。
東京バレエ団は、2006年この「ドナウの娘」日本初演を行い、その舞台は、第6回朝日舞台芸術賞を受賞しています。
ドイツのドナウ川沿岸地方に残る伝説のもと、舞台となるのは花々が咲き乱れる谷間。出生の定かでない、けれど無垢な美しさをもつ娘フルール・デ・シャンと、彼女に魅了される青年たち。美しい自然に囲まれた村と豪華な宮廷、妖精たちが棲む水中の世界。そこで起こる突然の悲劇と神秘的な出来事・・・。ここにはロマンティック・バレエ最盛期の息吹を伝える魅力的な要素がつまっています。
「ドナウの娘」は、ヒロインが暮らす村、領主の宮廷、ドナウの川底へと場面が移るなか、村人や貴族、女官や護衛、小姓や子供たち、そして妖精たちなど登場人物が延べ128人にのぼり、これらを80名の出演者が演じるという大規模なバレエです。
主役たちのいくつものヴァリエーションやパ・ド・ドゥ、ソリストによるパ・ド・サンクに加えて、村娘たちの可憐なダンスや妖精たちの幻想的な群舞など、華やかな見どころが満載。また、領主を欺こうとするフルール・デ・シャンの演技、恋人を失ったルドルフの狂気の場面など、ドラマティックなシーンも見逃せません。ロマンティック・バレエのスタイルにもとづく、味わい深いダンスと演技をお楽しみください。